バイオマスモノマーを用いた主鎖生分解性ゴムの開発と機能化

髙坂泰弘
(信州大学繊維学部 テニュアトラック助教)

2015年6月30日火曜日

pH・温度に応答する新材料を開発:新しい論文が出ました(その2)

この度,新しい論文が格好良く編集されたので紹介します.

" α-(Aminomethyl)acrylate: polymerization and spontaneous post-polymerization modification of β-amino acid ester for a pH/temperature-responsive material"
日本語訳:  α-(アミノメチル)アクリル酸エステル:pH・温度応答性材料を与えるβ-アミノ酸エステルの重合および自発的高分子修飾反応

Yasuhiro Kohsaka (信州大),   Yusuke Matsumoto and Tatsuki Kitayama (阪大) 

Polymer Chemistry, DOI: 10.1039/C5PY00723B 


©Polymer Chemistry, RSC publishing

アミノ酸って,ありますよね.
栄養素やサプリメントでおなじみの,あれです.
アミノ酸は私たち生物の体を作る基本材料になるので,生きていく上で欠かせない栄養素です.
最近,隕石からアミノ酸の痕跡が見つかって,「地球外生命の存在を発見か」と大騒ぎにもなりました.

このアミノ酸ですが,アミノ基・カルボン酸(カルボキシル基)・側鎖の3つの部位で構成されます.
自然界では,アミノ基とカルボキシル基が互いに反応・連結して高分子を作ります.これがタンパク質です.

そんな中,あるとき,ふと思いつきました.

アミノ酸をアミノ基・カルボキシル基を使わず,側鎖で連結して高分子を作ったら,どうなるだろう?

そんな素朴な疑問が,この研究の始まりです.
実験を始める前に,いろいろ調べてみると,なんと60年以上前に同じことを考えていた日本人研究者が!

ところが,この高分子,原料のアミノ酸が不安定で合成が難しい上に,仮に合成できたとしても,すぐに分解することが報告されています.
初めは「自然はなぜアミノ酸をアミノ基とカルボキシル基で連結した?」と疑問に持っていましたが,実は「それ以外は不安定だから」という安直な理由だったようです.

しかし,ここで諦めては研究者ではありません!

というわけで,裏技(イカサマとも言う)を考えました!

自然界に存在するアミノ酸の大半は基本炭素原子は1つなのですが,2つに増やしてしまいました.
別に生化学者じゃないんだから,ちょっとくらい改造したっていいじゃん.

しかし,自然ってすごいですね.
完全に非天然のアミノ酸だと思っていたのですが,なんとハワイと紅海に棲む海綿が生産していました…
よし,これで天然由来ってPRできるぞ!

早速,そのアミノ酸誘導体を原料に高分子を合成すると,びっくり!

希塩酸中では,低温でのみ可溶化し,室温付近で不溶化する.

アミノ酸誘導体だから,水に溶けるかな,と思いきや,中性の水には溶けません
で,pHに敏感なアミノ基が存在するので,酸性の水には溶けるかな,と試したところ,濃塩酸にはよく溶けます.

ならば,その中間の希塩酸(うすい塩酸)では?と実験すると,なんと低温でのみ溶けるではありませんか!
ふつう,固体は温めると水に溶けやすくなるので,完全に逆転現象ですね.

興味深い現象が見つかり,その解析(次の論文で報告)も終わったのですが,もう一つ問題が.

この高分子の構造がよくわからないんです!

とりあえず,ふつうの高分子合成反応とは違う反応をしている様子.
この解析に,実に3年もかかりました!(正直,こちらが私の専門分野なのですが…)
これはひとえに,難題に立ち向かった共著者の学生さんの根性の賜です.

こうして無事に論文も発表でき,いまではほっと安心しています.

pHや温度に応答するこの高分子は,疾病時の体調変化(pHや体温の変化を伴うことがある,例えば熱や胃酸過多など)に応じて薬剤を放出するカプセルなどに応用できる可能性があり,今後の展開が楽しみです.








2015年6月19日金曜日

新しい論文が出ました!(その1)

ご無沙汰しています,高坂です.

前職での教え子が頑張って成果を挙げてくれ,新しい論文が国際誌に掲載されました!


論文の概要: 高分子の末端修飾を達成する新しい化学反応

私は小さな分子を20~100個以上繋げて,巨大分子(高分子)を組み上げる反応(重合反応)の専門家です.

今回はアクリル樹脂の合成に関する論文で,
アクリル分子を繋げるときに,端っこの構造を制御する方法を見つけた,という内容です.

まぁ,言ってみれば,アクリル分子「A」を35個繋いだら,

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

となって,これが俗に言うアクリル樹脂なんですが,化学反応の最後にBを加えると,


AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAB

と繋がることがわかったんです.Aと違ってBは1個しか入らず,そこで反応が停止するので,停止剤と呼んでいます.

このBを起点に他の化学反応を行うことができて,例えば

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAB--

なんて感じに,プラスチックと金属(鉄)を分子レベルで融合することもできる可能性があります.



今回の論文は,実はもっと重要な発見がありました.
難しい話なので,苦手な方は最後の数行手前まで読み飛ばして下さい.

さて,上に実験では,

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

を合成した後,反応の最後にBを加えてましたが, 
このときBと一緒にCを加えます. 
C停止剤ではないので,Cの後には,さらにCBが繋がることができます.
こうして反応は停止剤Bが反応するまで止まらずに続くので,

 AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAB
 AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAACB  
 AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAACCB
 AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAACCCB







と言う感じに,右端に Bがくっつく手前まで,Cが挿入されます.
一番上のBが入っていない高分子は,Cが反応する間もなくすぐにBが反応を停止すると生成します.要は,BCでどっちが先にAAAAAと反応するか,競争させています.

で,今回,  ABCBが分析装置で区別できることを発見しました.
これができると,

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

BCを一気に加えたときに,

すぐにBが反応するのか(右端がABになる),
とりあえずCが間に入ってからBが反応するのか(右端がCBになる),

これを区別することができます.

実際は一定の割合でそれぞれが生成するんですが,
この割合はBCの「反応のしやすさの差」を表しています.

こうして,いろいろなプラスチック原料の反応のしやすさを分析すると,
プラスチックを合成する際の化学反応のメカニズムを理解したり,
生成するプラスチックの組成を予測することができます.

最後は,かなり難しい話になってしまいましたが,

分子を1つ1つレゴブロックのように繋げてプラスチックを作る,
そのときの繋がり方をあの手この手で解析・予測していく

という雰囲気が伝われば幸いです.
 

2015年6月12日金曜日

学会③:海を越えた出会い

学会3部作の最終回です.

今回の学会では,英語で講演しました.
これには2つ理由があって,1つは来月に控えたフランス出張の練習です.
というわけで,来月は国際学会のレポートもします,はい.

もう1つの理由は,今回は日本で口頭発表できる適切な会場がないからです.

どういう意味かというと,
そもそも学会発表には,口頭発表とポスター発表があります.
恐らく,皆さんが抱く「学会」のイメージ,ドラマや映画に登場するステレオタイプな「学会」は,口頭発表ですね.これはいわゆるプレゼンテーションで,プロジェクタに映したスライドを使いながら,制限時間内で最新の研究成果を発表します.

これに対し,ポスター発表では壁に貼ったポスターの前に講演者が立ち,データを見せながら,自由に討論を展開します.

口頭発表では順番に成果をするので,しっかりとした論理構成が求められますから,
ある程度成果の出た,完成(間際)の研究を報告します.
大勢の聴衆にPRできる利点がありますが,制限時間内に討論を終える必要があううえ,
質問者も大勢の聴衆の前で発問する度胸が求められますから,限られた質問者との議論で終わってしまう欠点があります.

一方,ポスター発表は制限時間が1-2時間と長いので,発表する方は大変ですが,
何より聴衆と1対1の会話になることが最大の魅力で,近い距離で込み入った話ができます.

さて,話を戻しましょう.

高分子学会は,新物質を合成する「化学者」と,その性質を解析する「物理学者」が一堂に会するユニークな学会です.
余りにも参加者が多いので,「化学」と「物理」で学会の主題を1年ごとに交換しており,今年は「物理」がメインの年でした.

私は化学者ですから,「物理」の発表はできませんが,上の事情で今回は「化学」の発表はポスターのみとされています.
ただ,一見さんの海外研究者に配慮して,英語発表だけは分野を問わずOKという規程だったので,口頭発表を志望すると,自動的に英語で喋ることを強制されます.


何はともあれ,英語で喋るべく壇上に立つと(英語は久しぶりなので,ちょっと緊張します),
目の前に2年前にイングランドのパブで会ったイギリス人が!!

そんな馬鹿な,と思って名札を見ると,やはり彼ではありませんか!

なんと,日本で研究者として働くことになったのだそう!!
(ちなみに,前回も書きましたが,学会開催中の街の居酒屋には研究者がゴロゴロいるので,パブで会った兄ちゃんが研究者をしていても,何ら不思議はありません)

これは素敵な出会いですね!

世界の研究者がライバル,なんてよく言いますけど,
そこは人間同士,やっぱり 「研究」でいろいろな人と繋がれるのは,幸せなものです.

学会②:札幌は研究者だらけ

更新が滞ってすみません,高坂です.

先々週は学会で,そのまま怒濤の2週間があっという間に過ぎてしまいました.

この間,現職に着任して初めての講義があったり,実験の授業で実技指導・安全監督をしたり,次の学会の準備が迫ったり,もちろん研究もしたりで,ほとんど寝る間もない毎日でした.
残念なことに,来週も山口県への出張が入ったりと,なかなかゆっくりできそうにございません.

さて,ブログはというと,学会に関するお話の途中でした.

例年,5月の高分子学会は横浜で開催していたのですが.
今年から地方を巡業することになり,札幌での開催となりました.

5月の札幌は涼しく,会議施設も素晴らしい設備が揃っていて,非常に快適な学会でした.
唯一の欠点は距離で,初日は12時に信州大学を出て,ホテルに到着したのが21時と,移動するだけでとても疲れました.

札幌につくと,ススキノは研究者だらけ.
ホテルに向かう路上で知り合いの研究者2名に会い,ラーメン屋の隣のカウンターで別の研究者に会い,といった具合で,会期中は街に出る度に誰かに会う状況でした.
よくよく考えると,繁華街に研究者が集結って,なんか面白い光景ですね.

この辺りは人間共通なもので,どんなに偉い先生でも,札幌ではやはりラーメン,ビール,海鮮,ジンギスカンのようです.
というわけで,私も楽しい思いをさせて頂きました.
順番に,「すみれ」「奥芝(スープカレー)」「ひぐま」「白樺山荘」です.
こういう意味では,地方開催も,悪くないですね.宴会三昧で,教え子にご馳走したりもするので,甚だ財布が苦しいですが…