バイオマスモノマーを用いた主鎖生分解性ゴムの開発と機能化

髙坂泰弘
(信州大学繊維学部 テニュアトラック助教)

2015年12月11日金曜日

研究室完成までの長い道のり(第1回)

研究費のお話が終わったところで,研究室立ち上げの裏側を紹介します.

思えば,4月は本当にほぼ更地から始まったんですよね.
 このブログの実質的な第1回の投稿も,そんな状況を語っていました.

そして,5月の1回目の投稿は,「アングルを立てる」.
まだ,実験台すら未完成だったことが偲ばれます.
その後,職場の上司から基本道具であるエバポレーターを譲って貰いました

この頃は,日曜平日大工で実験室に鍵を付けたりもしました.
常備試薬がなくて,実験が停止したこともありました.

ある意味,のどかな風景でしたね.

研究費も,大学からの運営費と,前職から継続の2件の科研費,財団からの寄附金2件の手持ちの軍資金で回していました.このうち,前者3つはあっという間になくなりました.

私としては充実していた気分だったのですが,伊藤先生から心配されたこともありました.

そこに,バブル到来!!本学がテニュアトラック事業に採用され,国からの強力なサポートが保証されました.さらに,事業が不採用のときに備えて,個人的に水面下で動いていた草の根活動が実り始めました.

まず,現在までに国際科学技術財団を含む,5つの財団からご寄付を賜りました.
さらに,企業との共同研究も始まりました.こうして前回説明した研究費獲得の手段をフル活用し,実験室が充実して参りました.

詳しい機材の説明は後回しにするとして,まずは一挙に見てみましょう!

分子量測定装置:サイズ排除クロマトグラム

ホワイトボード.大,中の2台買いました.

ベルト駆動型油回転式真空ポンプ3台

直結型油回転式真空ポンプ1台

大容量の恒温超音波洗浄機

分析天秤.ほかサイズ違いの電子天秤2台も購入.

防爆冷蔵・冷凍庫.ふつうの冷蔵・冷凍庫と2台体制.
 
真空検体乾燥器.200度まで加熱しながら真空引きできる.

卓上遠心分離器.実はまだ1回しか使っていない…

壁一面の巨大ホワイトボード

あちらこちらにホワイトボード.科学は議論してなんぼ.

壁掛け式の器具乾燥器.

恒温乾燥機.この写真の頃はまだ何もなかった…

局所排気装置(ドラフト).後に簡易型をもう1台設置した.

ロータリーエバポレーター.こちらも現在では2台に増設.
乾燥窒素ライン2本.この設計・設置が大変だった.

真空ライン2本.これも私のデザインによる.
ガスクトマトグラム.純度や反応の進行度を測る機会.

とまぁ,こんな感じで,やっとこさ完成しました.

これもまだ仮の姿で,もう1カ年かけて拡充予定です!

2015年12月10日木曜日

研究費の話:獲得までの長い道のり

前回,研究には年間数百万単位の資金が必要な話をしました.
では,それらの資金はどうやって捻出するのでしょうか?

会社員であれば,当然研究開発部の資金は,会社が工面します.
では,大学の研究者であれば,当然大学が…ほとんど工面してくれません!

研究者は,いわば独立採算の中小企業なんです.
大学としての基本業務は,講義をすることと,研究をすること.
研究については最低限の資金は配分されますが,いわゆる旧帝大のように百万円単位で資金が支給されることは,地方ではまずあり得ません.

以上は,国立大学の「運営費交付金」問題がニュースになっていることから,ご存じの方も多いかも知れません.いわゆる授業料2倍(95万円)の政策に関する記事です.
今の時代,大学の研究者は,自分で資金集めをするのが当たり前なんです.


研究者にとって最も重要なのが「科研費」.
これは,いわば税金の獲得競争です.カテゴリー別に,億単位の基盤Sから,登竜門の若手B(500万円以下)まで様々な序列があって,研究者自身が自分の研究規模や実績を踏まえて,応募するランクを決めます.研究内容は完全に自由で,用途も融通が利きやすいので,とても有り難い資金源です.当然倍率も高くて,基本的に日本の研究者のほぼ全員が応募しますから,私も当落が不安でなりません.よく,研究者は科研費が「当たる」なんて表現をしますが,実際宝くじ感覚の方も多いと思います.これが狙い撃ちできるのと理想的ですが.

10月~11月は,国際会議の合間で,科研費の応募に四苦八苦していました.
応募は所定のフォーマットに従って企画書や研究実績を記載する形式で実施しますが,審査する偉い先生方は全く同じ分野の専門家とは限りません.例えば私の場合,「高分子化学」が該当しますが,高分子学会では発表領域が20以上に細分化されていますから,全く同じ分野の先生が審査する確率はかなり低くなります.ですので,研究アイディアを分かりやすく,かつ面白く見せる文章や図の才能も求められます.

そう,研究者は,もはや「科学」一本では難しいんですよ.
いまでは「国語」や「語学」,「美術」も「情報技術」も超重要です.
余談ですが,私の研究室では,こうした技術も伝授しています.


科研費以外では,この国際科学技術財団のような,民間の財団からの助成が存在します.
民間助成は企業や篤志家による寄付ですから,設立者の理念が反映された研究課題が多く設定されています.例えば,「高度医療」「環境・エネルギー問題対策」「資源対策」などですね.
いずれも社会に求められている研究ではありますが,言い換えれば完全な自由発想というわけにも行かず,「私の研究は~~に貢献します」というPRが必要です.

私は材料開発を対象に新しい化学反応を見つける研究をしているので,「材料開発」を役立つ内容に,「化学反応」を自分の学術的興味に充当し,両社を巧く連結するテーマ設定を心がけています.やはり,企画書を送って申請する形式ですから,選抜を勝ち抜くためには,何らかの努力・工夫が必要です.



研究費獲得の最後の手段は,会社との共同研究です.
これも,企業の皆様の商品化に結びつくアイディアや技術力が必要ですね.また,学術研究と違って納期が短いので,成果を出すのが大変です.

共同研究を嫌う先生も多いのですが,私の研究はどうやっても,一人では実用化できません.
企業の方とタッグを組むことで,社会貢献することも重要だと思ってます.
実用化されれば,私が見つけた「夢」を現実に叶えて下さるわけですからね.



とまぁ,こうなってくると「科学」だけで科学者ができない事情が分かって貰えたと思います.
私はこれをエンジョイしていますが,やっぱり嫌になってしまう方も多いですよ.



2015年12月9日水曜日

研究費のはなし:用途編

皆さん,仲間由紀恵さんと阿部寛さん主演の「トリック」を見たことはありますか?
私は結構好きなんですけど,職業柄,毎回共感してしまうところが…

それは,物語の冒頭で,
 
 日本科学技術大学物理学教授・上田次郎(演:阿部寛)にゲストキャラクターがヘンテコな依頼をする場面で,

「 もし,この依頼に応えてくれれば,先生に研究費をば…」

で,上田教授は寂れた山村やらジャングルの奥地やらに赴き,エセ怪奇現象を…

という,この冒頭の部分.私もこんな依頼受けたら,ジャングルに行ってしまいそうですね.


というわけで,今回は研究費の話題を2回に分けて特集します.

学術研究をする上で必要なのが研究費.最近では,昨年社会を騒がせたSTAP問題の検証費用が,世間の金銭感覚を遙かに上回る額で,批判の対象になりました.

私は専門外なので分かりませんが,バイオテクノロジーは性質上,かなり研究費が必要なようです.私の専門の化学も,規模にもよりますが,やはり年間数百万単位は必要ですね.

何故こんな経費が掛かるかというと,化学の場合はまず,最先端の機械を使いますから,その購入費や維持費が半端ないのです.何せ,生産量も限られる完全受注生産品ですし,現在のテクノロジーの粋を集めた最新機材ですから.

また,意外にアナログな部分もあって,例えば私のフラスコ類は,すべてお手製です. ガラス器具には複雑な形の装置や,完全オーダーメイドの一点ものもありますが,いずれも職人技で作られており,言ってみれば伝統工芸品ですから,これまた高額なのです.

薬品も高価です.これは原料費など実費のほかに,輸送費も含まれています.薬品は危険なものが多いですから,法規制に従って厳重に輸送されます.当然,特殊な梱包や許可された特別車両での運搬が必要ですので,輸送コストだけでも大変な金額になります.

経費が出しにくいのが旅費と廃棄物の処理費.

まず旅費ですが,国際学会に参加する場合,会期中1週間前後の滞在費と,参加登録費(ふつう5万~10万),往復の航空券(当然エコノミー)を工面せねばなりません.参加登録費は,会場費や資料の印刷代が大半です.もともと営利目的ではないので,そこは良心的ですが,それでも科学者の自主開催イベントですから,結構な経費が掛かります.旅費・滞在費も1週間の会期だと,ほぼふつうの海外旅行並みになりますね.
原材料費と違って,こういった研究成果と直接関連づけにくい費用は,なかなか供出しにくいので,使途の制約がない研究費をいかに集めるかが重要になってきます.学会に出られなくなると,研究者コミュニティからも忘れられかねませんから,結構必死です.

廃棄物の処理費はもっと悲惨です.誰も,ゴミのために投資したくありませんよね.
しかしながら,実際はゴミ,いわゆる産業廃棄物は結構出ます.例えば,破れた手袋,使用済みの実験用注射針,濾過した後の汚れた濾紙,実験廃液など…
これらは幸い,研究機関が大半の面倒を見てくれていますが,この先どうなるか分かりません.
特に私の研究は新しい物質の合成ですから,なかなか危険なゴミも多いので,安全になるまで処理・浄化するのは結構大変なんです.

こうした研究費を,いかに獲得するのか?
次回は,その当たりを紹介できればと思います.

2015年12月7日月曜日

横浜で国際会議:言葉の違い,発想の違い

最近出張報告ばかりで恐縮ですが,9月~11月は飛び回っていました.

そんなわけで,今度は横浜で国際会議です.


横浜開港記念会館.神奈川県庁の向かいです.
朝はここ(日本大通り駅)から出発して,会場のアルパシフィコ横浜へ通いました.

横浜はもともと学生時代に住んでいたので(もっと内陸ですが),この辺りも時々遊びに来ました.
ですから,なんか出張という気分がしませんでしたね.

国際会議は「高分子(Macromolecular) 工学による卓越した高分子 (Polymer) 材料の国際会議」という題目です.英語を見ると分かりますが,高分子という述語の英訳にはMacromolecule とPolymerの2種類があり,若干ニュアンスが違います.
日本語ではどちらも「高分子」.この違いを「文化の差」「大した差ではない」と認識するか,日頃から欧米人は日本人と違った「視点」で現象を捉えていると認識するか.

ちょっと観念的になりましたが, 言葉って大事ですよ.
例えば,「図書」「本」「書籍」「書物」でニュアンスが違うじゃないですか.
「図書館」「本屋」はあっても「書籍店」「書物屋」はない,という感じに.
図書館には…最近では娯楽本も増えましたけど,やっぱりお堅い感じですよね.

こうしたちょっとの差が,科学の発想の違いに活きてくるから,わからないものです.
実際,研究の最先端では,Macromolecule(巨大分子)ではないPolymer(重合体)なんて,厄介な“高分子”が登場しています(専門用語ではSupramolecular Polymer 超分子ポリマーといいます)…

さて,言葉の違い,認識の違いと言えば,味覚もそうですね.

日本語ではHotもSpicyもどっちも「辛い」ですが,英語では違います.
中国語では…四川料理では,「辣(辛み)」と「麻(痺れ)」を区別し,その融合が「怪味」だそうです.
これは感覚の問題なので,言葉のニュアンスと違って,割と簡単に身を持って体験できそうですね…

というわけで…



こ,これは…本場四川料理を中華街で堪能してきました.

肝心のお味は…麻辣味,よくわかりました!
しかし,辛かった…


2015年12月2日水曜日

米沢で招待講演

マレーシアから帰国して2週間後,今後は米沢で国際会議です.

私は研究者としては珍しく,海外経験が学生時代の6ヶ月のみです.ふつうは1-3年は海外で研究しますから,このハンディは大きく,英語は苦手です.

ただ,国際会議に出る度に思うのですが,英語の上手・下手とは別に,話好き・嫌いというファクターも重要で,こちらでは私は有利なようです.

さて,苦手の英語ですが,さすがに国際会議が3連続とあって,だんだん慣れてきました.
話している内容も講演時間も全部違いますし,台本も作っていないので(もはや,そんな暇はない),アドリブですが.主催者の方には,準備不足で申し訳ないですが,マレーシアでの失敗から,専門用語を躊躇無く使用して,難なく乗り切りました.

この国際会議で一番の衝撃は, 学生が運営していたこと.
大学院生が講演者を世界各地から募り,当日も座長(司会)を務めるという試みで,教育モデルとして大変参考になりました.

もう一つの感動は,「バナナの皮で何故滑るか」でイグ・ノーベル賞を受賞された,馬淵先生にお目にかかれたことです.研究にも遊び心は必要ですが,こうした分かりやすくて笑える発想は大好きです.しかしながら,その背景に「膝の関節の科学」が隠れていると伺い,とても面白かったです.





さて,米沢と言えば,米沢ラーメンですね.
え?米沢牛…食べ損ねました.仕事ですから,そんな余裕はなかったんです。。。

2015年12月1日火曜日

マレーシアで招待講演

皆さん,シルバーウィークはどうして過ごしましたか?

私は…仕事で全部潰れてしまいました.家族には申し訳ない限りですが,これも研究者の宿命でしょうか.

遡ること数ヶ月前,マレーシアから招待講演の依頼が届いたのです.
それも,マレーシア科学連盟の結成70周年という,大変おめでたい行事の本会議です!

大変名誉なことなのですが,結果的に前述のようになりました.
海外はシルバーウィークなんて関係ないですからねぇ.ただの平日です.



日本から約8時間,信州から12時間,マレーシアにやってきました!
人生初の東南アジアです.マラッカ海峡のタンカーの列に驚きつつ,到着したのはクアラルンプール・セントラル駅.



こんな感じで,近代都市です.


上はクアラルンプール駅で,駅舎はとても美しい白磁の建物でした.が,私が到着したのはセントラル駅で,上は学会終了後,帰国前に撮ったものです.

初日は夜中18時の到着で,とにかく大変でした.
まず,両替は両替商へ.レートが全然違うので,お店巡り.

ホテル近辺は開発中で,まだ全然店がないそう.
そこで,食事目当てにスーツケースを持って中華街へ!
ホテルまでに中継地なんですが,30分以上は歩きましたね.度はまず足で,が私のスタンスです.
が,目当のお店は閉店しており,諦めて適当な店へ.


これで500円くらいですが…あんまり綺麗じゃないですね.
味もイマイチでした.

この日はとにかく疲れたので,あっという間に寝てしまいました.
次の日は,早朝から国際会議場へ.




こんな感じです.しかし,講演が「マレーシアの科学技術の未来」とか「森林(熱帯雨林)の科学」ばかりで,化学の会場は日本人ばかり.
プログラムを見た時点である程度覚悟はしていましたが,東アジアの中では比較的研究レベルの高い中国や韓国,台湾が来ていないので残念です. 日本人と現地人以外はほとんどいなかったのですが,政治的な理由でしょうか…

さて,現地の方に美味しいレストランを聞くと…





いや,それは確かに美味しいけど…

いや,そうじゃなくて…


と,まぁこういう感じで,日本はよいイメージのようです.
後で分かりましたが,どうも私,かの国で現地人と勘違いされていた模様!
うーむ.




せっかくなので,饂飩は止めて,2日目はタイ料理.これが一番美味しかったですね.一番高くもありましたが,1200円くらいですから,まぁ日本と同じです.


これが海南チキンライス,東南アジア名物です.これが食べたくて,初日は中華街まで行ったんですよね.価格も300円と良心的.


こちらはマレー料理.現地に詳しい日本の知り合いから教わった店で頂きました.


肝心の講演ですが,分野外の方があまりにも多く,専門用語を使うにも使えずで,かなり微妙な感じになってしまいました.
この教訓が,次の国際会議以降生きてきます.その話はまた,次回以降に.





仙台で学会発表

もうかなり前の話ですが,9月15-17日に仙台で開催される高分子討論会に参加して参りました.


仙台といえば牛タンですが,まずは海の幸で腹ごしらえ.
というより,学会会場が東北大学だったので,食堂以外に食べる場所がなく,その食堂も混雑が要されたため,駅弁での対応になりました.

このあたり,年の功というか,手ぶらで参加した学生は,食事を諦めざるを得なかったみたいですね.



夜は共同研究先と牛タンで会食.
信じられないくらいの厚切りで,美味です.

が,仙台と言えば「牛タン」となるわけで,このあと共同研究先と打合せが入る度に,毎回「牛タンで会食」になったのでした.美味しいから嬉しいけど,財布が苦しい.会社員と違って,公務員は交際費が出ませんから,すべて自腹ですからねぇ.



これは,東北大の生協で見つけた有機化学の教科書.
実は,英語なんですよ,これ.私の講義でも同じ教科書を使っていますが,もちろん翻訳版.
さすが東北大!と思いつつも,一つ間違えると「学生が教科書を全く読まない」ことになりそうです.何せ,私自身が学生時代に英語で無機化学の教科書を買い,そうなりましたから.



発表も終わって,大学近くという青葉城へ.
予想以上に堅牢な山城で,スーツで行くところではなかったです.このあと,またも「牛タン会食」でした…