毎週実施している講義や学生実験に加え,
研究成果の報告で全国を行脚したり,
論文を投稿したりと,研究関係も大忙しでした.
さて,この度,新しい論文がPolymer Chemistry誌のweb版にて仮掲載されたので報告します.
Polymerization of α-(Halomethyl)acrylates through Sequential Nucleophilic Attack of Dithiols using a Combination of Addition–Elimination and Click Reactions
(付加脱離反応とクリック反応を組み合わせたジチオールの連続的求核攻撃によるα-(ハロメチル)アクリル酸エステルの重合)
DOI: 10.1039/C6PY02145J
Polym. Chem., 2016, Accepted Manuscript
DOI: 10.1039/C6PY02145J
今回の論文のハイライトは,「結合組み替え反応を利用し,単官能モノマーを重縮合した」ことです.
何のことや,となると思いますので,簡単にその概要を紹介します.
はじめに,重縮合反応について.
例えば,次のような化学反応があったとします.
A-X + B-Y → AB + XY
これを高分子合成に応用する場合,反応点X, Yの数を1箇所から2箇所に増やして,
X-A-X + Y-B-Y → -(AB)n- + XY
のように反応させると,
高分子 -(AB)n- が合成できます.
これがふつうの重縮合で,反応点が2箇所のモノマー(単量体)どうしを反応させます.
それに対して,今回の論文では,反応点が1箇所のモノマーの重合に成功しました.
このためには,2段階の反応を利用します.
まず1段階目の反応ですが
A-X + Y-B-Y → X'-AB-Y + XY
原料の分子A-Xは反応すると反応点Xを失いますが,このとき新しい反応点X'を生成する不思議な性質があります.
もし,分子A-Xの相方となる分子に従来型のモノマー Y-B-Yを用いれば,上式のように新しい分子X'-AB-Yが生成します.
第2段階では,このX'-AB-Yがさらに重合して
X'-AB-Y → -(AB)n- + X'Y
となり,高分子 -(AB)n- が生成します.
「だから何?」と言われると,何でも無いですね.
実はこの発見自体は,何の役にも立ちません.
ただ,この発見から着想される第2弾,第3弾の成果は機能材料の創製にも繋がる可能性があり,引き続き研究を進めていきたいと思います.