バイオマスモノマーを用いた主鎖生分解性ゴムの開発と機能化

髙坂泰弘
(信州大学繊維学部 テニュアトラック助教)

2017年1月16日月曜日

学生実験3 同じ物質を違う方法でつくる

前回から,学生実験のお話をまとめています.
(未読の方はこちらをどうぞ.)

繰り返しますが,今回の授業の基本方針を再掲します.

1. 化学反応が目で見てわかる
2. 分子設計が高分子の材料特性に与える影響を触って体感できる
3. 同じ物質を異なる手法でで作る
4. 定番ではなく,安直なネット検索では資料がヒットしない
5. 最新の研究成果を織り込む

今回は, 3. 同じ物質を異なる手法でで作る がテーマです.
何でこんなことを考えたのか?

有機化学の学生実験では,いわゆる定番レシピに従って実験すれば,おおよそ目的物が得られます.
考察するポイントはたくさんあるのですが,どういうわけか収率(※)ばかり議論するレポートが多くなります.

※収率…原料から期待される目的物の重量(理論収量)に比べて,実際に目的物がどれだけ得られたかを示す値.

それは無意識のうちに実験を「成功」「失敗」の二元論で考えていて,収率が100%であれば「成功」で,以下収率が下がるごとに「失敗」の様相が濃くなる,と捉えているからでしょう.

ところが,現実はそう単純ではありません.

例えば,副反応(目的以外の反応)が存在する場合,あるいは可逆反応で平衡状態(それ以上反応が進まない状態)にある場合,収率が100%に成る方が不自然です.

あるいは,どんな病気も治す万能薬があったとして,その合成ではどう頑張っても収率が1%だった場合はどうでしょう?この実験は失敗か成功か…たぶん成功でしょうね.なぜなら,どんなに高価でも,それを必要とする人はいるはずだからです.

そんなわけで,「収率」以外の考察を想起させる実験テーマを設定したいと思いました.
そこで,3. 同じ物質を異なる手法でで作ることを考えました.

前回,フェノールフタレインの重合を紹介しました.
今回は,この高分子を前回(界面重合)とは別の手法(溶液重合)で合成することにしました.

使用する薬品はもちろん,実験装置から反応中の様子まで,もう全く違います.
同じのは原料の試薬(フェノールフタレインほか)だけですが,これで同じ物質ができるから面白いものです.

で,結果はどうなったか?

(左)界面重合(右)溶液重合で合成した高分子

写真の左が前回の実験(界面重合)で,右が今回の実験(溶液重合)で合成したポリマーです.
ご覧のように,同じ物質とは思えないほど見た目が全然違います.

冒頭で3. 同じ物質を異なる手法でで作ると書きましたが,本当に「同じ」なんでしょうかね…
確かに原料も高分子の化学構造は同じですが…

実は,今回(写真左)の実験では前回(写真右)と違い,高分子合成に最適な条件を設定しました.
そのため,フィルム状,あるいは繊維状のポリエステルが問題なく生成したのです.
両者とも高分子の化学的な構造は同じですが,分子量(重合度)や不純物の含有率が大きく異なります.
これが,見た目の違いに反映されました.

この実験では,「同じ」とは何なのか,両者の違いはなぜ生じたのか,2つの合成方法の長所と短所は何なのか…など,たくさんの疑問が生じます.この辺りを考察して貰えれば,もはや「収率」という面白くもない技術論から離れたレポートが書けるはずです.

実際にどんなレポートが出てきたかは,ここでは書くことができませんので.皆様のご想像にお任せします.

2 件のコメント:

  1. 一連の投稿、興味深く読ませていただきました。学生さんたちは、良き指導者に恵まれて
    幸せですね。教育設計がキチンとなされていると思います。何事もそうですけど、考え方の基本がしっかりしていることは、とても大切だと思います。失敗しても、帰る点があるからです。頑張ってください。

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    1. ありがとうございます.

      私は別に正解を求めているのではなく,また1回の経験から技術を正確に身につけて欲しいとも思わず,ただ考える習慣を付けて貰いたくて,こういう設定にしました.

      もちろん,設定したポイントに気付かなければ,ふつうの定番実験と同じようなレポートになります.「発見」自体が科学のスタートですから,気付かないと面白くないのですが.

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