バイオマスモノマーを用いた主鎖生分解性ゴムの開発と機能化

髙坂泰弘
(信州大学繊維学部 テニュアトラック助教)

2017年12月28日木曜日

(更新)「新進気鋭の研究者」として招待論文が公開!

年の締めくくりに,嬉しいお知らせです.

Polymer Chemistry誌に,研究成果が論文として掲載されました.

今回はなんと,'Emerging Investigators'(新進気鋭の研究者)としての招待論文で,私の略歴も掲載される予定です!
この雑誌は高分子化学では最高峰の雑誌ですので,大変驚くと同時に,心から感謝しております.


Conjugate substitution and addition of α-substituted acrylate: A highly efficient, facile, convenient, and versatile approach to fabricate degradable polymers by dynamic covalent chemistry

Yasuhiro Kohsaka, Takumi Miyazaki, Keito Hagiwara

http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2017/py/c7py02114c#!divAbstract


ここにたどり着くまで,あんなことこんなこと,大変な苦労がありました.
年内に決着が付いて,本当に安心しました.

(2017年12月28日追記)
論文の内容について,追記します.

なお,この研究成果についての特許は私が押さえておりますが,
出願こそしたものの,審査に回すかも含めて全く見通しが立っていません.
現在,提携先(企業)を募集しておりますので,ご興味があればご連絡下さい.

さて,内容ですが,

私が最近注目している「共役置換反応」という化学反応を利用して,
化学的に分解可能な高分子を合成した,

という,非常にマニアックな研究です.

以前の研究でも,
「共役置換反応」は高分子合成において優れた化学反応である
ということを報告しておりました.

しかしながら,
この研究では「共役置換反応」に加えて,
「共役付加反応」という全く別の化学反応を組み合わせていたため,

反応の適用範囲はジチオールという試薬のみ,
しかも特定の触媒,溶媒を使用しなければ高分子にならない,

という大きな制約がありました.

今回の新技術では,「共役置換反応」のみで高分子を合成しているため,
ジチオールのほか,ジカルボン酸,ビスフェノール,モノアミンなど,
様々なタイプの試薬を原料に高分子を合成することができます.

さらに,
一部の例外を除き,反応条件の制約がない(適当に実験しても成功する),
という,大きな改善点がありました.

で,この論文にはさらに続きがあります.

「共役置換反応」で合成した高分子ですが,
なんと,同じ「共役置換反応」で分解することができます.

一見すると????という現象ですが,
いままで,反応基Xと反応基Yを両手に持つ分子をn個ずつ組み合わせて,

n X-A-X + n Y-B-Y -----> --(XAXB)n-- + nY

という様式(重縮合)で分子を繋いでいたところに,
反応基Yを片手にしか持たない別の分子CYを反応させると,

--(XAXB)n-- + CY  -----> CXAXC + BY

Cが割り込んで,分子が分解します…う~ん,やっぱり難しいですね.

何にせよ,

「合成に使ったのと全く同じ反応で分解をする」

なんて発想,
なかなか珍しいのではないでしょうか.

これ,実は全く別のことを狙っていて,
学生に実験させたら,

学生「先生,高分子が改質するどころか,粉々に分解してしまいました(泣)」

という報告があり,

私「おぉ,それは面白い!」
私「最初から分解する計画だったことにして論文を書こう!」
私「その方が意外な発見だし,頭良さそうじゃないか」

学生「…😕」

というセレンディピティーから生まれた研究です.

まぁ,何事も結果オーライと言うことで,めでたしめでたし.

2017年12月25日月曜日

祝!閲覧30,000回(実は31,000回)突破

このブログの閲覧回数が30,000回を超えました.
実は12月上旬には超えていたのですが,忙しかったり論文など先に公開すべき情報があったりで,やっとご報告という次第です.

これからもどうぞ宜しくお願いします.

研究成果が報道されました

先週の論文に関する記事が,12月15日付で化学工業日報の1面トップ記事を飾りました!

著作権の問題もあるのでここには表示できませんが,
インターネットでもハイライト部分のみ閲覧可能です.
http://www.kagakukogyonippo.com/headline/2017/12/15-32091.html

どうもありがとうございました.

2017年12月13日水曜日

(論文紹介)金属もハロゲンも用いない安全・安心なポリエステル合成

この度,イハラニッケイ化学工業株式会社との共同でChemistry Letters誌に研究成果を発表しました.
今回は2つ目の論文の紹介です.


Bifunctional Acyl-1,2,4-triazole: An Alternative Monomer of Dicarbonyl Chloride for Metal- and Halogen-Free Polyester Synthesis

Y. Kohsaka,*1 K. Homma,1 I. Mori,S. Sugiyama,2 Y. Kimura2
(1信州大学繊維学部, 2イハラニッケイ化学工業株式会社)
Chemistry Letters, in press (https://doi.org/10.1246/cl.171098)




ポリエステルは,繊維材料やPETボトルはもちろん,自動車部品,電子素子など様々な分野で利用される高分子です.

工業的には,主にエステル交換法という手法でポリエステルを合成しています.
この方法では分子量が大きいポリエステルが生成するという利点がありますが,
200度~300度程度の高温,真空下で反応を行うため,エネルギー負荷が大きいという欠点がありました.

また,反応にはチタン化合物などの金属触媒を用いるのですが,
金属触媒がポリエステル中に残存しやすいという問題がありました.
残留金属はごく微量ですが,半導体など電子材料には悪影響を及ぼしかねませんし,
このようなポリエステルを食品容器に使用することに批判的な意見も出ているようです.

ポリエステルは,ジカルボン酸クロリドからも合成が可能です.
この反応は低温,常圧で実施できる利点がありますが,
強酸性・強毒性の塩化水素が発生するため,
何らかの方法で塩化水素を処理する必要があります.
このため,酸クロリド法は実験室など小スケールでの合成が主でした.

今回の研究では,以前の論文で報告したアシルトリアゾールによるエステル化反応がポリエステル合成にも有効であることを見出しました.

金属触媒もハロゲン(塩素)原子も用いないこの手法は,
上述のような諸問題を解決に繋がります.
また,100度以下の低温でも重合が達成され,エネルギー負荷も小さくなりました.

さて,私は高分子合成が専門ですが,信州大に着任する前は,
主にアクリルモノマーや精密アニオン重合が研究対象でした.

今回はアクリルでもアニオン重合でもないので,
前回に引き続き,またまた未経験の分野での論文となります.

では全くの素人かというと,実は学生時代にポリ炭酸エステルの合成に関する実用化研究をお手伝いしていまして,多少の知識や経験はあったのです.
当時は渋々やっていた研究でしたが,こうしてあの頃の知識が役に立つのですから,不思議なものです.

(論文紹介)酸クロリドに匹敵する高速エステル化反応の開発

この度,イハラニッケイ化学工業株式会社との共同でChemistry Letters誌に研究成果を発表しました.


Esterification with Aromatic Acyl-1,2,4-triazole Catalyzed by Weak Base at the Rate Comparable to Acyl Chloride

Y. Kohsaka,*1 K. Homma,1 S. Sugiyama,2 Y. Kimura2
(1信州大学繊維学部, 2イハラニッケイ化学工業株式会社)
Chemistry Letters, in press (https://doi.org/10.1246/cl.170975)




簡単に言うと,

安全かつ高速でエステルを合成する化学反応を見つけましたよ,

という内容です.

原料となるのは,タイトルにもあるアシルトリアゾールという試薬.
もともと,アシルトリアゾールを用いたポリエステル合成の研究を進めていたのですが,
研究の早い段階から,

「まずは基本となる化学反応についてもキチンと調べておきましょう」

と,提案をしました.

アシルトリアゾールのエステル化反応は古くから知られていたのですが,
困ったことに,標準的な手法は高分子合成に適用しにくい状況でした.
そこで,高分子合成に特化して反応をカスタマイズする必要が生じたんです.

研究の結果,

適切な触媒の存在下では,
アシルトリアゾールがカルボン酸塩化物を凌駕する速度でエステルを与える

ことを見出しました.

「触媒をうまく選択すれば,反応速度は改善する」

とは予想していましたが,
まさか最強と言われる酸塩化物を超える結果が生じるとは思ってもいませんでした.

論文では,反応速度の測定から,反応メカニズムの解釈,分子構造と反応性の相関など,かなり細かい議論をしています.

つまり,ぜんぶ有機化学に関する内容です.

私は高分子化学が専門ですので,
まさかこんな論文を書く日が来るとは思ってもいませんでした.

今回の論文は自分にとっても未踏領域でしたので,
非常によい経験となりました.

きっかけを作って下さった,
イハラニッケイ化学工業株式会社ならびに共著者の皆様に心より感謝申し上げます.